2022年1月4日〜3月6日に開催された琵琶湖博物館ギャラリー展示「琵琶湖の虹が映(ば)える理由(わけ)」は、琵琶湖地域の様々な物理現象について考える展示企画で、基本的に説明に数式は用いていません。 しかし「物理学」の雰囲気を出す演出として、各コーナーに関連のある数式を説明なく掲示しました。 この各々の数式の意味について解説します。
光の屈折に関する最も基本的な法則です。 媒質の境界面に光が入る角度と出る角度の比率が「屈折率」と呼ばれる各媒質ごとの物性値で決まることを表しています。 虹も蜃気楼も大気中での光の屈折によって起こる現象なので、この法則が基本ということになります。
流体が流れるときの運動エネルギーと圧力との関係を示す法則です。 流体が速く流れるときには周囲に及ぼす圧力が減少します。 水道管の中を流れる水の圧力などを計算する場合にも使われるほか、強い風が周囲に及ぼす影響の計算にも使えます。
横向きの圧力を受けている流れが地球自転の影響でバランスしている状況を示す式です。 大気の場合は気圧を測定してそこから流れを算出することができますし、湖沼や海洋では水温や塩分から密度を算出し、それを横向きの圧力に換算して流れを推定することができます。
成層している流体の一部が何らかの理由で上下に動いた際に周囲の流体から復元力を受けて振動するときの振動数です。 強く成層しているほど振動数が大きくなる(速く振動する)ため、成層の強さを表現する数値として使われます。
体験コーナーの実験では様々な力学現象が観察されると思われますが、いずれにしても個々の部分は運動方程式に従って運動します。 この運動方程式に、全体に回転が加わった影響を加味したもので、右辺の第2項は遠心力、第3項はコリオリ(Coriolis)力、第4項は回転が時間変化した場合の影響を表しています。
浮遊してプランクトンとして生活する生物にとって、自分がどれくらいの速度で落下するかは重要です。 気体や液体の中を落下する物体は、ある程度の距離を落ちると、粘性抵抗と重力がバランスする速度に落ち着きます。 これを「終端速度」と呼びます。 落下する物体が小さくて球形で近似可能である場合に、この終端速度を算出する数式です。 水中で生活するプランクトンは多くの場合終端速度で落下します。
水の表面の波は、凹凸に応じて重力の作用が異なることが復元力になっているので「重力波」と呼ばれます(重力そのものが波となって伝わる現象も「重力波」と呼ばれますが別の現象です)。 この重力波の伝播速度を表す数式です。 津波は波長が水深より非常に長いので、2行目のような簡単な数式で近似できます。 津波のほか、静振、あるいは潮汐や高潮による波にもこの近似が使えます。
資料集にはどんな現象に関わる話題が登場するか判らないので、全ての物理現象の基本となる数式を探した結果、この数式を選ぶことにしました。 相対性理論の結論として有名な数式で、数式そのものは極めて単純な内容ですが、原子爆弾を開発する契機にもなった、影響力の大きな数式です。
活動紹介では何らかの形で流体に関わりがある活動が紹介されるので、流体の運動に関する基本方程式としました。 但し、通常の基本方程式に、地球自転の影響を加味してあります。 琵琶湖の湖流や周辺の気象現象には地球自転の影響を考慮することが欠かせないからです。